心に残った本(2021年)

 最後に読み終えた本の印象が一番強い。
 武田梵声『野生の声音』はすごい本だった。帯に「驚くべき書物」(養老孟司)とあるが、けっして大げさではない。
 同じ時期に購入した竹村牧男『空海言語哲学』や三浦雅士スタジオジブリの想像力』と同時並行的に、ノートを取りながらほぼ4カ月じっくり読み進めていった。
 ここからたくさんの事が始まるだろうと思う。

 それ以上に三浦本は素晴らしかった。
 あくまで個人的に、そして今この時期の関心事にそくしてという条件つきで。(これに対して、武田本の方は「個人的」かつ「普遍的」にすごい。)実はまだ読み終えていない。
 読み終えてしまうのが惜しい気がして、三分の一ほど残し年を越して熟成させることにした。

 今年のベスト本は三冊。
 一冊目は森田真生『計算する生命』。単独でも絶品だが、『僕たちはどう生きるか』との合わせ技で極上の一本。
 二冊目、かわぐちかいじ沈黙の艦隊』。電子書籍を始めて以来、いつか全巻揃えて一気読みしたいと思っていた。(『めぞん一刻』と『課長島耕作』と『日出処の天子』もそのうち。)
 そして最後が『スタジオジブリの想像力』。

 今年の収穫。
 例年に比べ漫画をたくさん読んだこと。『沈黙の艦隊』以外に『恋する民俗学者』と『はじめアルゴリズム』(三浦本と同様に年を越すことになった)。いずれも電子書籍
 ビジネス系、自己啓発系の本をいくつか読んだこと。読み飛ばしそうになるのを堪えて丁寧に、しっかりノートを取りながら。
 『TAKE NOTES!』で知った「ツェッテルカステン」(ルーマンの創案)は面白かった。

 本の読み方が変わった。
 たくさんの本を早く読むことに意義を感じなくなった。少しの本を厳選して、かならずノートを取りながら、できれば何度も反芻し味わいながら、少しずつ無理せず読み進めていくことで、かつての「愉悦」が甦ってくるのではないかと思うようになった。
 読み終えることにもこだわらなくなった。ある部分(たとえば文庫の解説)だけ何度も読んだり、電子書籍のサンプル版を集めて読んだり、青空文庫で短編を読んだり、雑誌の部分読みをしたりと、「切れ端」を編集して、自分だけの書物を頭のなかにつくりあげることが面白くなってきた。


【人文系】

三浦雅士スタジオジブリの想像力──地平線とは何か』

○野村直樹『ナラティヴ・時間・コミュニケーション』[電子書籍
中沢新一『アースダイバー 神社編』
○永田希『書物と貨幣の五千年史』
○森田真生『僕たちはどう生きるか──言葉と世界のエコロジカルな転回』
末木文美士編『死者と霊性──近代を問い直す』
○山口裕之『映画を見る歴史の天使――あるいはベンヤミンのメディアと神学』
○森田團『ベンヤミン──媒質の哲学』
○柿木伸之『断絶からの歴史──ベンヤミンの歴史哲学』
○今福龍太『身体としての書物』
○今福龍太『薄墨色の文法──物質語の修辞学』
安藤礼二『熊楠 生命と霊性
○G・トラシュブロス・ゲオルギアーデス『音楽と言語』(木村敏訳)
真木悠介『気流の鳴る音──交響するコミューン』[電子書籍
田中久美子『言語とフラクタル──使用の集積の中にある偶然と必然』
○竹村牧男『空海言語哲学──『声字実相義』を読む』


【哲学系】

◎西平直『東洋哲学序説 井筒俊彦と二重の見』

○岡本裕一郎『哲学と人類──ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで』
○古田徹也『はじめてのウィトゲンシュタイン』[電子書籍
○近藤和敬『ドゥルーズガタリの『哲学とは何か』を精読する──〈内在〉の哲学試論』[電子書籍

【政治経済社会系】

堤未果『デジタル・ファシズム──日本の資産と主権が消える』

○牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦──秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』
○待鳥聡史『政治改革再考──変貌を遂げた国家の軌跡』
白井聡『武器としての「資本論」』[電子書籍
○斎藤幸平『人新世の「資本論」』[電子書籍
○太田肇『同調圧力の正体』
加藤典洋『9条の戦後史』
沢木耕太郎オリンピア1996 冠[コロナ]〈廃墟の光〉』


【数学サイエンス系】

◎森田真生『計算する生命』

○マーカス・デュ・ソートイ『レンブラントの身震い』
小林秀雄岡潔『人間の建設』[電子書籍


【ビジネス・自己啓発系】

◎神田房枝『知覚力を磨く──絵画を観察するように世界を見る技法』[電子書籍

○読書猿『独学大全――絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』[電子書籍
○太刀川英輔『進化思考──生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』[電子書籍
○ズンク・アーレンス『TAKE NOTES!――メモで、あなただけのアウトプットが自然にできるようになる』[電子書籍
○JIDAI『再創造する天性の動き!──感情=身体エネルギーで、「思い通り」を超える能力が発現』


【芸術系】

◎武田梵声『野生の声音──人はなぜ歌い、踊るのか』

高橋康也『橋がかり──演劇的なるものを求めて』
三浦雅士『考える身体』(河出文庫:2021.06.20/1999)


【マンガ系】

かわぐちかいじ沈黙の艦隊』全32巻[電子書籍

大塚英志原作/中島千晴漫画『恋する民俗学者』全2巻(柳田國男編&田山花袋編)[電子書籍
○三原和人『はじめアルゴリズム』全10巻[電子書籍


【文学批評系】

◎中野剛志『小林秀雄政治学

金子兜太いとうせいこう『他流試合――俳句入門真剣勝負!』[電子書籍
カズオ・イシグロ『クララとお日さま』(土屋政雄訳)
○フェルナン・ペソア『新編 不穏の書、断章』(澤田直訳)[電子書籍
○堀田善衞『定家明月記私抄 続篇』
○廣野由美子『深読みジェイン・オースティン──恋愛心理を解剖する』[電子書籍
堀江敏幸『おぱらばん』
松岡正剛『うたかたの国──日本は歌でできている』


【エンタメ系】

◎ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q──アサドの祈り』(吉田奈保子訳)

グレッグ・イーガン順列都市』上下(山岸真訳)[電子書籍
○カリン・スローター『スクリーム』(鈴木美朋訳)[電子書籍
○マーク・キャメロン『密約の核弾道』上下(田村源二訳)
○宮下奈都『羊と鋼の森』[電子書籍
佐々木丸美『雪の断章』[電子書籍


【論文系】

山内志朗・永井晋「情熱の人、井筒俊彦の東方」(『未来哲学 第二号』所収)

井筒俊彦「「気づく」──詩と哲学の起点」(『読むと書く 井筒俊彦エッセイ集』)
永井均哲学探究3」(「web春秋 はるとあき」連載中)
○谷口一平「存在と抒情──短歌における〈私〉の問題」(『未来哲学 第二号』所収)