坂部恵の美学講義(1)

 別冊水声通信が創刊された。(「ムック形式で1テーマを掘り下げる新たな論集」)
 第一回が『坂部恵──精神史の水脈を汲む』。冒頭に、坂部恵の遺稿の一部が掲載されている。全二十一講からなる『美学講義──霊的美の系譜』(仮題)の第一講。
 通読して、次の二つの断片を記憶することにした。


《リベラル・アーツという共通の根から、(ファイン・)アートもサイエンスも生まれた。》


《美学を含めた現代の人文諸学でも、レトリックの復権の動きが一九六○年代このかた、いちじるしい。ニュートン物理学を典型とする厳密学のモデルが相対化され、生きてはたらく言語や生活世界への関心が高まる機運と大幅に連動する動きである。》


 解題(黒崎政男)に、この美学講義は『ヨーロッパ精神史入門──カロリング・ルネサンスの残光』と対をなす仕事であると言える、とある。(個人的述懐。私が坂部恵にいれこむきっかけになったのが、この『精神史入門』だった。)
 また、「論文体とアフォリズムの中間的表現」で書かれた本稿は、メルロ=ポンティの遺稿『見えるものと見えざるもの』を髣髴とさせる、とも。
 水声社から近刊予定とのこと。「世阿弥と日本中世の芸術論」や「武満徹の音楽論」などの話題もとりあげられているという。