2009-05-01から1ヶ月間の記事一覧

〈インメモリアル〉な時を求めて

「かたるに落ちる」というけれど、「はなすに落ちる」とはいわない。 だから、〈かたる〉は〈はなす〉よりひとつ上の世界にすまいしている。 〈うたう〉や〈いのる〉、〈つげる〉や〈のる〉と〈はなす〉のはざまから、 神と人の垂直の関係へ、はては〈しじま…

双子のように響き合う文人哲学者

◎坂部恵『不在の歌──九鬼周造の世界』 文人哲学者・九鬼周造という「異例の哲学者」(『九鬼周造エッセンス』「解説」での田中久文氏の評言)の度はずれたスケールとその深さまた高さを、「註解」もしくは「註釈」という方法で凝縮した格好の入門書。入門書…

フィクションとしてのテクスト、フィクションとしての人生

貫之ときけば、古今集仮名序の「やまとうたは、人のこころをたねとして、よろづのことのはとぞなれりける」を想起する。 和歌は「人のこころ」を詠んだもの。表現せずにはいられない、やむにやまれぬ「思い」を言葉の技術を駆使してうたいあげるのが和歌であ…

神も昔は人ぞかし─神仏習合と歌枕

先日、大岡信著『うたげと孤心 大和歌篇』(集英社)を読んでいて、「神仏混淆というまことに日本的な信仰形態の定着という事実と、一方、律令時代から摂関時代への移行、遣唐使の廃止、平仮名の発明と普及、『古今和歌集』勅撰事業の推進と完成などにみられ…

続々・原形質と洞窟

◎洞窟をめぐって 『パースの宇宙論』第四章「誕生の時」の冒頭に、「パースの宇宙論においては、視覚世界から嗅覚世界への向き直りが、現実世界の形式の非唯一性を認識させる扉を開くという明確な意識が存在した」(182頁)と書いてある。 そして、「人が光…

続・原形質と洞窟

◎原形質をめぐって 伊藤邦武著『パースの宇宙論』第三章「連続性とアガペー」の141頁から149頁にかけて、(全体が一つの原形質[*1]からできている)アメーバの話題をふりだしに、「物質のもつ精神性の有無」をめぐる議論(「アメーバの感情」「記号…

原形質と洞窟

五連休の最終日。 この五日間、近所の図書館に顔をだしたり、コーヒーショップで本を読んだりと、徒歩10分程度の範囲で、日に1度、1、2時間程度外出した以外は、遠出もせず、街にもくりださず、ただ黙々と部屋にこもり、深夜遅くまでパソコンにむかって…

パースの閃光──伊藤邦武『パースの宇宙論』

チャールズ・サンダーズ・パース。その生涯に1250篇近くの論文を発表(230頁)。総計は1万2千枚、加えて、未発表の草稿が少なくとも8万枚はあるという(宇波彰「アブダクションの閃光」、『記号的理性批判』44頁)。 ある研究家は、「アメリカ大陸が…

パースの宇宙論と坂部恵のヨーロッパ精神史

伊藤邦武著『パースの宇宙論』の巻末の注をめぐる最後の話題。前回と同じ、第四章「誕生の時」から。 パースは『連続性の哲学』(岩波文庫)に、「感覚質の宇宙は、それぞれの次元間の関係が明瞭になり、縮減したものになる」(257頁)と書いた。この、「混…

パースの宇宙論と九鬼周造の回帰的時間

伊藤邦武著『パースの宇宙論』の巻末の注をめぐる話題をもう一つ。第四章「誕生の時」から。 なお、これに先立つ箇所に、次の文章がでてくる。「彼の哲学には、われわれは視覚的な世界への囚われをいったん緩めることによって、ユークリッド幾何学以外の世界…

パースの宇宙論と折口信夫の言霊言語論

伊藤邦武著『パースの宇宙論』の第二章「一、二、三」に、パースが寄稿した雑誌『モニスト』の編集者ケイラスの話が出てくる。 《…『モニスト』という名前はケイラスの思想的立場を表している。モニストとは一元論者を意味するが、ケイラスはこの言葉で、唯…