2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

怪物の力を解き放つこと――『古代から来た未来人 折口信夫』

中沢新一著『古代から来た未来人 折口信夫』(ちくまプリマー新書)。 折口信夫は「古代人」だった。たとえば、『古代研究』冒頭の「妣が国へ・常世へ」に出てくる次の一節。 《十年前、熊野に旅して、光り充つ真昼の海に突き出た大王个崎の突端に立つた時、…

村上春樹の大長編小説──「精神的な囲い込み」と「主観の混乱」

最近無性に、村上春樹の小説を読み直したいと思うようになった。ここ数年目にふれるたび買い求めてきた村上春樹論(内田樹著『村上春樹にご用心』ほか)もけっこうたまってきたので、ついでにまとめて読みたいと思う。 『海辺のカフカ』以来となる「大長編小…

三つの時間、三つの世界

映画はいつだって三つの層からできている。三つの時間の層、三つの語りや経験の空間といってもいい。──『白いカラス』と『めぐりあう時間たち』をDVDで立て続けに観ての、これが感想。 『白いカラス』では、作家ネイサン・ザッカーマンの回想を通じてコー…

「心の歌」としての歌曲、「〈生〉の履歴」としての音楽

前回抜き書きしたリルケの二つ目の文章は、その後、マルテと同郷のデンマークの女性が、伯爵夫人に請われてイタリア語で、ついでドイツ語で歌うシーンへとつづく。 そこで、吉田秀和著『永遠の故郷──夜』(集英社)に、詩をめぐる美しい文章があったのを思い…

『マルテの手記』からの抜き書き

前回書いたこととも関連する文章を、『マルテの手記』から二つ抜き書きしておく。 《僕はものを見ることを学び始めたのだから、まず何か自分の仕事にかからねばならぬと思った。僕は二十八歳だ。それだのに、僕の二十八年はほとんどからっぽなのだ。振返って…

リルケとブローティガン

軽井沢への旅の道連れに携えたリルケの『マルテの手記』(大山定一訳)を読みながら、なにも孤独な詩人の魂の苦悩と呻吟だとか二十世紀初頭のパリの貧民の悲惨な生活だとかに思いをはせていたわけではなかった。 これはまったくの偶然なのだが、小旅行の前後…

空しさに耐える知恵──『破綻した神 キリスト』

バート・D・アーマン著『破綻した神 キリスト』(松田和也訳,柏書房)を読んだ。 人はなぜ苦しむのか。600万の無辜のユダヤ人は、なぜユダヤ人であるというだけの理由で、冷血に抹殺されなければならなかったのか。この地上で、毎日4万人の男女、子供…