2011-01-01から1年間の記事一覧

今年読んだ本

今年読んだ本のなかから、心に残ったものを拾ってみた。●印がベストテン、◎印が次点、といったところ。 ●中井久夫『私の日本語雑記』(岩波書店:2010.5.28) ●佐々木健一『日本的感性──触覚とずらしの構造』(中公新書:2010.9.25) ●内田樹『レヴィナスと…

Web評論誌『コーラ』15号のご案内

「哥とクオリア/ペルソナと哥」の第19章「哥の現象学あるいは深読みの愉悦──ラカン三体とパース十体(急ノ参)」を寄稿しています。よかったら眺めてみてください。 ■■■Web評論誌『コーラ』15号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!…

和歌における思想的構造の意味論的研究・承前

引き続き、若松英輔氏の文章から。 《井筒豊子は俊彦の妻でもあるが、独立した一個の思索者である。小説集、複数の訳書もある。しかし、彼女の業績のなかで最も注目するべきは和歌における「思想的構造の意味論的研究」である。 成果は「言語フィールドとし…

和歌における思想的構造の意味論的研究

井筒俊彦への関心が高まっている。 司馬遼太郎との対談で、「私は、元来新古今が好きで、古今、新古今の思想的構造の意味論的研究を専門にやろうと思ったことさえあるくらいです」と語っているのを目にして以来のこと(『十六の話』文庫版の附録「二十世紀の…

最近読んだ本─中沢新一『日本の大転換』ほか

中沢新一著『日本の大転換』を読んだ。 ここに書かれている事柄の多くは、中沢新一さんがこれまでに書いてきた本のなかでもっと精緻に論じられている。 たとえば「太陽と緑の経済学」の先駆をなすピエロ・スラッファの「贈与的交換の部分を組み込んだ生産」…

最近買った本─吉行淳之介『夕暮まで』ほか

ある若い人が最近、吉行淳之介の文体に惹かれるものを感じたので読んでみたいと思っていると話してくれた。 吉行の作品は学生時代のある時期、かなり熱心に集中して読んだことがあって、もう題名はほとんど忘れたけれども長中短篇の小説の世界には孤独や憂愁…

言いたいと思っていること

ヘーゲル『精神現象学』(長谷川宏訳、作品社/1998年3月)の第一章「感覚的確信──「目の前のこれ」と「思いこみ」」から。 《わたしたちは感覚的なものを一般的なものとして表現してもいるわけで、わたしたちのいう「このもの」は「一般的なこのもの」であ…

非人称の「意味するのを欲する」こと

互盛央著『フェルディナン・ド・ソシュール──〈言語学〉の孤独、「一般言語学」の夢』(作品社、2009年7月)を拾い読みしていて、印象に残ったところを一つ。 (安藤礼二さんがいう「表現」にも、大いに関係するところがあると思うので。) 本書の最後で、ソ…

性愛と墓地、観念をモノ化するマテリアリズムの力

中沢新一さんの「大阪アースダイバー」が週刊現代に連載されていて、時々、読んでいる。 「どじょう野田を操る「本当の総理」勝栄二郎」という記事を読みたくて買った10月8日号は、「土はすばらしいマテリアリスト(唯物論者)である。」に始まる第42回…

三つの性愛と性的身体の「かたち」

『場所と産霊』に、三つの性愛と性的身体の「かたち」が描かれていたので、メモ(備忘録)を残しておく。 ◆その一、フーリエ。性の奇癖、天使的結合。 「青年期には陽気な娼婦たちとの語らいを通して自らの性の奇癖、「女子同性愛者嗜好」(ドゥブー『フーリ…

「表現」としての近代日本思想史──安藤礼二『場所と産霊』

安藤礼二著『場所と産霊 近代日本思想史』(講談社、2010年7月)読了。 素晴らしい。実に、素晴らしい。 一昨年、『光の曼荼羅 日本文学論』に接して驚愕し、『神々の闘争 折口信夫論』を読み返しては驚嘆し、さらに雑誌掲載の「霊獣」を耽読して驚倒し、『…

存在の感じ方、男と女がどのように感じあえるか

昨日の話題、恋愛や性愛をめぐる哲学の書をめぐって。 松岡正剛さんが、千夜千冊の第九百十六夜で、ハイデガーの『存在と時間』という「とてつもなく難解な哲学書を柔らかく」するために、「女の話」をもちだしている。 「およそ世界に存在しないものなんて…

音楽をつくりあげること──『哲人たちはいかにして色欲と闘ってきた

サイモン・ブラックバーン著『哲人たちはいかにして色欲と闘ってきたのか』(屋代通子訳、築地書館、2011年7月)読了。 「本書は、ニューヨーク公共図書館とオックスフォード大学出版局によるキリスト教「7つの大罪」についての講演企画のうち、『色欲』の…

腐敗しているのは誰なのか──真山仁『コラプティオ』

真山仁著『コラプティオ』(文藝春秋、2011年7月)読了。 質の高い政治小説を読みたいと思っていた。 海堂尊著『ナニワ・モンスター』が期待ハズレ(予告篇としてはそれなりによく出来ていたと思うけれど、本当に読みたいのは本篇)だったので、あまり気を…

哲学を伝えること──永井均の講演(2)

前回、永井均さんの講演を「永井哲学の上演」と書いたことについて。 『なぜ意識は実在しないのか』の「はじめに」に書いてあったこと。 2006年の夏、大阪大学文学部でおこなわれた講演の音声ファイルの入手先を紹介したあとで、「これは、役者がひどく…

語りえぬこととしての存在──永井均の講演(1)

大阪中之島の朝日カルチャーセンターで、永井均さんの講座を聴いた。 8月27日の土曜日、午後3時半から5時過ぎまで。ちょうど大阪が激しい雨(気象庁の発表では、午後4時過ぎまでの1時間で史上最多の77.5ミリ)に襲われていたときのこと。 雨音、落…

Web評論誌『コーラ』14号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』14号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/index.html ●現代思想を再考する1 デリダと継承の困難● 継承と隔たり――いかにしてデリダは/を継承するか ST(コメント…

私が死んだら世界が消える

週刊現代(8月6日)の「日本一の書評」に、中島義道著『明るいニヒリズム』をめぐる著者インタビューが掲載されていた。 現在の風景に過去の意味を付与するのは自分だから、自分がいなくなれば過去の世界はなくなる、とあります。これは「自分が死んだら世…

批評の不在──坂部恵の美学講義(3)

坂部恵の日本文化論「不在の主体/主語と批評の不在」の概略紹介の後段。前回引用した佐々木健一氏の文章の続き。 《この文化の特徴は、批評(批判的活動)に対しても次のような影響を及ぼす。先ず、藝道の諸分野で、その初期には傑出した批評が生れる(定家…

不在の主体=主語──坂部恵の美学講義(2)

美学講義・第一講に、2001年、幕張で開催されたアジア初の世界美学会大会での挿話が紹介されている。 「インドの女性美学者は、私たちは美術館に展示された芸術などという概念はもたない、といった。非西洋文化圏からの挑戦的な言辞である。」 その大会…

坂部恵の美学講義(1)

別冊水声通信が創刊された。(「ムック形式で1テーマを掘り下げる新たな論集」) 第一回が『坂部恵──精神史の水脈を汲む』。冒頭に、坂部恵の遺稿の一部が掲載されている。全二十一講からなる『美学講義──霊的美の系譜』(仮題)の第一講。 通読して、次の…

Web評論誌『コーラ』13号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』13号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/index.html ----------------------------------------------------------- ●新連載〈心霊現象の解釈学〉第1回● 心霊現象…