2013-01-01から1年間の記事一覧

心に残った本

今年読んだ本のなかから選んでみた。◎がベストテン、○が次点。 ◎與那覇潤『中国化する日本──日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋:2011.11.20) ◎白井聡『永続敗戦論──戦後日本の核心』(太田出版:2013.03.27) ◎藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本…

Web評論誌『コーラ』21号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』21号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/index.html --------------------------------------------------------------- ●現代思想を再考する[第2期] 3● グノーシ…

Web評論誌『コーラ』20号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』20号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/index.html --------------------------------------------------------------- ●現代思想を再考する[第2期] 2● 自由の条…

Web評論誌『コーラ』19号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』19号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/index.html ●現代思想を再考する6● 差異と継承 ST(コメント:広坂朋信) http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/genda…

小説の物語

☆ウラジミール・ナボコフ『ナボコフの文学講義 上』(野島秀勝訳,河出文庫:2013.01.20) 昔、阪神淡路大震災よりも数年前に読んだマヌエル・プイグの『蜘蛛女のキス』が面白かった。(1992年9月以降に読んだ本は記録しているが、蜘蛛女はそこにでてこ…

誰が語っているのか

☆ル・クレジオ『物質的恍惚』(豊崎光一訳,岩波文庫:2010.5.14) 昔、たぶん大学生の頃だったと思うが、アンリ・ミショーの詩やデッサンに強く惹かれていた時期があった。小海永二氏の著書か訳書を何冊か買い求めたような気がするのだが記憶が不確かで、詩…

最後に現われるものが最初から存在する

☆岡ノ谷一夫『「つながり」の進化生物学──はじまりは、歌だった』(朝日出版社) 岡ノ谷一夫さんのことは小川洋子との共著『言葉の誕生を科学する』(河出ブックス)ではじめて知り(これは名著だった)、つづけて『さえずり言語起源論──新版 小鳥の歌からヒ…

恋歌と恋文、音の韻と字の韻・読後談(その2)

☆石川九楊『日本の文字──「無声の思考」の封印を解く』(ちくま新書) ☆松木武彦『進化考古学の大冒険』(新潮選書) ☆養老孟司『身体の文学史』(新潮文庫) 『日本の文字』の読後談をもう一つ。 石川九楊氏は、「文字とは話し言葉を記すためのたんなる記号…

恋歌と恋文、音の韻と字の韻・読後談(その1)

☆石川九楊『日本の文字──「無声の思考」の封印を解く』(ちくま新書) ☆『芸術新潮』2006年2月号[特集|古今和歌集1100年 ひらがなの謎を解く] ☆小松英雄『みそひと文字の抒情詩──古今和歌集の和歌表現を解きほぐす』(笠間書院) 『日本の文字』…

恋歌と恋文、音の韻と字の韻(その2)

☆石川九楊『日本の文字──「無声の思考」の封印を解く』(ちくま新書) 第五章「文字と文体」に、「ひらがなとともに生れた古今和歌」のレトリック、掛詞、縁語、見立、歌枕、等々は、「音による韻律ではなく、文字=書字による韻律、書字詩」、すなわち「文…

恋歌と恋文、音の韻と字の韻(その1)

☆石川九楊『日本の文字──「無声の思考」の封印を解く』(ちくま新書) 西洋の恋する男は女性が暮らす部屋の窓の下で歌を歌って求愛するが、東アジアの男は恋文を書いて思いを伝える(152頁)。西洋では声の美しい男がもてて、東アジアでは美しい文字を書く男…

知の妖怪と知の怪物

☆白川静+梅原猛対談『呪の思想 神と人との間』(平凡社) 奇人・梅原猛、大奇人・白川静。二人の知の巨人(知の妖怪と知の怪物)が今世紀の初頭、三度にわたって対峙した。歴史に刻まれるべきその対談のテーマは、漢字(=饗)と孔子(=狂)と詩経(=興)…

くり返し、それを求めて立ち帰ってくるように誘うことをやめない力2

☆吉田秀和『マーラー』(河出文庫) 詩人か作曲家か数学者。子供の頃、いつか自分が就くことになる職業、というか天職はこのうちのどれか一つ、あるいは複数のものを兼ねることになると信じて疑わなかった。「就くことになる」であって「なりたい職業」や「…

くり返し、それを求めて立ち帰ってくるように誘うことをやめない力

☆吉田秀和『マーラー』(河出文庫) ここ一年近くマーラーの交響曲を聴きこんでいる。聴きこむというほど集中しているわけではないけれども、時にネットからダウンロードした楽譜を眺めながら聴くこともある。(いつか「アナりーぜ」の真似事をやってみたい…

一生に一度しか書けない書物

☆石井洋二郎『告白的読書論』(中公文庫) 書店の新刊本のコーナーで目にして以来、なぜか気になってしかたがなかった。 あとがきに「思春期から青年期にかけての読書体験がもたらしてくれたなんともいえない甘酸っぱさやほろ苦さには、やっぱり忘れがたいも…

世界文学リスト[Ver.1]

読んだ本のことだけではなくて、買った本、借りた本、読みかけの本、読まずにすませた本、等々のこともたまには書いてみることにした。 ☆ウラジミール・ナボコフ『ナボコフの文学講義』上・下(野島秀勝訳,河出文庫) ブランショの『来るべき書物』を読みな…

オペラント反応のこと・その他

傳田光洋著『皮膚感覚と人間のこころ』を読んでいて春木豊著『動きが心をつくる』を想起したので、先月の読書日記から。 ☆池谷裕二・中村うさぎ『脳はこんなに悩ましい』(新潮社) ☆森川友義『一目惚れの科学──ヒトとしての恋愛学入門』(ディスカヴァー携…

ケラチノサイトは偉い

☆傳田光洋『皮膚感覚と人間のこころ』(新潮選書) とても勉強になったし、とにかく面白かった。科学啓蒙書として出色の出来映えだと思う。(先月読み終えた春木豊著『動きが心をつくる──身体心理学への招待』と関連づけて考えると、きっと面白いことになる…

二人の靜

☆九鬼周造「文學の形而上學」(『九鬼周造全集 第四巻』岩波書店) 九鬼周造の文章を読むと、心地よい眩暈のようなロジカル・ハイに襲われる。 昨年、『連続性の問題』を読んでいて、硬質の抒情味をたたえたあざやかな(まるで豆腐を縦と横と水平にスパッ、…

「瞑想のすすめ」

☆地橋秀雄『実践ブッダの瞑想法──はじめてでもよく分かるヴィパッサナー瞑想入門』(春秋社) 日経(02月10日朝刊)の文化面で永井均さんの「瞑想のすすめ」を読んで、さっそく影響を受けた。 著者はグリーンヒル研究所の所長。同じ春秋社から『ブッダの瞑想…

時間の外、非人称的な読書空間(後半)

☆モーリス・ブランショ『来るべき書物』(粟津則雄訳,ちくま学芸文庫) ヘッセ論(「H・H」)は素晴らしかった。『デミアン』について6頁にわたって論じられていたのが嬉しかった。(前半のヴァージニア・ウルフと後半のヘッセにはとても誘惑された。す…

時間の外、非人称的な読書空間(前半)

☆モーリス・ブランショ『来るべき書物』(粟津則雄訳,ちくま学芸文庫) 分量的な意味での本書の折り返し点にあたるブロッホ論を読み終えたところで、中間総括的な感想を書いておこうと思いたった。 「小説は読んでいる時間の中にしかない」とは保坂和志の至…

読み終わらない本はいい

☆保坂和志『カフカ式練習帳』(文藝春秋) 昨年四月の刊行以後、ほぼ一定の進度で読み継いできた。 おもしろいと思うところとそれほどでもないところが交互にでてきて、そのこともふくめて総じてとてもおもしろいと思った。できればいつまでも読み続けたいと…

現在進行形のソシュール言語学

☆ポール・ブーイサック『ソシュール超入門』(鷲尾翠訳,講談社選書メチエ) この作品は一篇の小説なのではないか。読み進めながらそんな感想をもった。たとえばソシュールの言語思想を主人公とする新趣向のビルドゥングスロマン。あるいは新しい聖体(ラン…

分離と結合

☆オクタビオ・パス『弓と竪琴』(牛島信明訳,岩波文庫) オクタビオ・パスの文章は野性的で甘美だ。知性の経糸が荒々しく分離した断片を官能性の緯糸が繊細に縫合し結合する。 夢を見るようにして読み終えたいま、この巨大な書物からいくつかの美しい文章を…

官僚・閣僚経験者の執念

☆堺屋太一『「維新」する覚悟』(文春新書) 近代日本の歴史のなかで、国家予算の全支出に占める税収の割合が5割を割ったことが三度ある。一度目は幕末、二度目は太平洋戦争の敗北の時、そして三度目が現在。つまり、総支出に対して税収が4割しかないのは…

ゴジラ、あるいは国家の死を告げるリヴァイアサン

☆片山杜秀『国の死に方』(新潮新書) 映画「ゴジラ」が封切られた昭和29年11月、日本の政治は死に体だった。造船疑獄、指揮権発動、国会乱闘、警官隊の導入とつづく、政党再編前夜の政治的空白を、水爆大怪獣・ゴジラが襲った。 政治は空転する。壊れた…

大阪都構想は政治的寓話を超えるか

☆砂原庸介『大阪──大都市は国家を超えるか』(中公新書) 大阪都構想は「政治的な寓話」(221頁)の域を超えることができるか。 明治維新以来の大都市をめぐる制度と政治闘争の歴史を、市長対議会、東京対その他の大都市、大都市対全国(農村)の三つの対立…

中沢新一の思考世界を一望する

☆中沢新一『野生の科学』(講談社) 中沢新一の著作リストには『カイエ・ソバージュ』シリーズや『フィロソフィア・ヤポニカ』のような長編群のあいだに『ゲーテの耳』や『知天使(ケルビム)のぶどう酒』や『ミクロコスモス』1・2といった美しい装いをも…

技術と言語と美的創造活動の起源

☆アンドレ・ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』(荒木亨訳,ちくま学芸文庫) 暮れから年明けにかけて読み込んだ。なぜもっと早く、できれば翻訳書が刊行された四十年前に読んでおかなかったかと悔やまれる。もしかしたら生き方(進路)が変わっていたかもし…