官僚・閣僚経験者の執念



堺屋太一『「維新」する覚悟』(文春新書)


 近代日本の歴史のなかで、国家予算の全支出に占める税収の割合が5割を割ったことが三度ある。一度目は幕末、二度目は太平洋戦争の敗北の時、そして三度目が現在。つまり、総支出に対して税収が4割しかないのは敗戦の時なのである。現在、われわれは第三の敗戦を迎えている。
 第一の敗戦に遭遇した日本は、開国、版籍奉還廃藩置県、新貨条例、学制(教育改革)の五大改革で維新を成し遂げた。このうち最も重要なのは版籍奉還、すなわち武士身分の廃止(身分社会から職能社会への転換)である。第二の敗戦からの復興でこれに相当するのが公職追放であった。
 こうした歴史に学ぶならば、第三の復活を成し遂げるためにまずなすべきことは公務員制度の改革であり、次に中央集権体制の打破である。「自分のお金を使うときは他人のお金を使う時よりも利巧だ」という「ニア・イズ・ベター」の原則のもと、官僚独裁・東京一極集中の国のかたちを地方自立(究極は地域主権道州制)に改める。その上で、教育改革(自由化)、開国(TPP参加問題)、エネルギー(原子力発電の存廃、エネルギー自給)、財政再建社会保障といった課題に取り組むこと。


 以上が本書に書かれていることのおおよその概略。
 集権・集中の戦後体制の分析や事例、たとえば大阪に本部事務局を置いていた繊維業界に対し通産省(当時)が圧力をかけ東京へ移転させた等々、官僚・閣僚経験者である著者ならではの思い(執念という語を使いたくなる)がこめられた文章が印象に残る。