オペラント反応のこと・その他


 傳田光洋著『皮膚感覚と人間のこころ』を読んでいて春木豊著『動きが心をつくる』を想起したので、先月の読書日記から。



池谷裕二中村うさぎ『脳はこんなに悩ましい』(新潮社)
☆森川友義『一目惚れの科学──ヒトとしての恋愛学入門』(ディスカヴァー携書)
☆春木豊『動きが心をつくる──身体心理学への招待』(講談社現代新書


 池谷・中村本と森川本をつなぐのはオキシトシン、テストステロンとエストロゲン、右手の薬指と人差し指の比率、PEAといった体内ホルモンやホルモンにまつわる話題。
 森川本と春木本は、恋をしているからドキドキするのではなくドキドキしているから恋をするのだという吊り橋効果と、人は悲しいから泣くのではなく泣くから悲しいのだというウィリアム・ジェームスの説でつながる。
 脳と体と心、それに言語を加えた四つの項の関係。宇宙と数学(感覚)と音楽(感情)と記号(情報)の関係。この二つの問いがつながるかもしれない。そんなことを考え始めると眠れなくなる。


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 音を鳴らしてから餌を与えることを繰り返すと、音が鳴るだけで唾液が分泌されるようになる。パブロフの犬のこの反応をレスポンデント反応(反射)という。
 音を鳴らしてから電気ショックを与え、回避行動をとると音も電気ショックも停止する。この実験を繰り返しているうち被験者(白ネズミ)は音が鳴っただけで、電気ショックが与えられる前に回避行動をとるようになる。これは単なる反射ではなく意図的な反応であり、オペラント反応と呼ばれる。
 この白ネズミの行動は「音→不安→回避行動→音が消えて不安がなくなる→反応の持続」と要約することができる。ここに成立する「情動」(不安)と「予期」と「選択」は心の現象の原初的な姿である。「最初から心があって、回避反応を起こしたのではなく、状況に対して動いた結果、心らしきものが形成された」のであり、「記憶の内容(心)は末梢の動きの結果なのである」(39頁)。
 著者はこの二つの反応、反射(無意志的反応)と意図的反応(意志的反応)の両方の性質をもつものを「レスペラント反応」と名づけている。呼吸、筋反応、表情、発声、姿勢、歩行、対人空間(距離)反応、対人接触という筋骨格系の反応がそれである。
 「体」的性質をもつレスポンデント反応(反射)と「心」的(=意志的)性質をもつオペラント反応が二重になっているレスペラント反応(反射/意志的反応)は、心身一如の経験、すなわち西田幾多郎純粋経験につながっている。──以上、春木本から、忘備録として。


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 春木本は去年、最後のしあげのところだけ読まずに残しておいた。大切な本になるにちがいないと直感したからで、あらためて通読してみて確信にかわった。ほぼ同時期に読んだいくつかの関連本とあわせて、できればなにかまとまった書評か感想文を書いておきたいと思う。せめて関連本をリストアップしておく。


◎石川幹人『人間とはどういう生物か──心・脳・意識のふしぎを解く』(ちくま新書
◎石川幹人『人は感情によって進化した──人類を生き残らせた心のしくみ』(ディスカヴァー携書)
代々木忠『快楽の奥義──アルティメット・エクスタシー』(角川書店
山鳥重『言葉と脳と心──失語症とは何か』(講談社現代新書
岡ノ谷一夫『さえずり言語起源論──新版 小鳥の歌からヒトの言葉へ』(岩波科学ライブラリー)
平田オリザ『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書