心に残った本(2015年)

★尼ヶ崎彬『ことばと身体』(勁草書房:1990.1.30)
★新川哲雄『「生きたるもの」の思想──日本の美論とその基調』(ぺりかん社:1985.5.10)


 コーラに連載している「哥とクオリア/ペルソナと哥」の参考書として読んだものから二冊。他に江藤淳『近代以前』や高階秀爾『日本人にとって美しさとは何か』も部分的に印象に残っている。
 尼ヶ崎本では『日本のレトリック』も忘れがたいが、まだ読み終えていない。全篇を読みえ終えていない本では、吉本隆明の講演本が七、八冊。ずいぶん刺激をうけた。マス・イメージ論やハイ・イメージ論などは講演録を読まなければ理解できない。
 新川本は常備本。いずれ再読、精読することになると思う。


★三浦哲哉『映画とは何か──フランス映画思想史』(筑摩選書:2014.10.15)
アンドレ・バザン『映画とは何か』上下(野崎歓他訳,岩波文庫:2015.02.17)


 三浦本の第二章「バザンのリアリズム再考」が貫之現象学に、第三章「ブレッソンの映画神学」が俊成系譜学に、第四章「ドゥルーズ、映画の信と創造」が定家論理学に、それぞれ驚くほどの精密さでつながっていった。となると第一章「パンルヴェ的世界」は貫之以前の初期歌謡の世界と重なりあっていくのだろうか。
 バザン本は熱中して読んだ。これほどの濃さと拡がりをもった書物はめったにめぐりあえない。映画関連本では淺沼圭司『二〇一一年の『家族の肖像』──ヴィスコンティデカダンスとしての「近代」』と前田英樹『映画=イマージュの秘蹟』が次に読む本の棚に並んでいる。


★周防柳『逢坂の六人』(集英社:2014.09.10)


 紀貫之六歌仙が登場する。貫之論、古今論、和歌論として秀逸でとても参考になったが、それ以上に文章がよくて(美味しい文章)作品世界が怪しい魅力をたたえていた。
 惜しみながら時間をかけて読み終え、流れをたやさないよう冲方丁『はなとゆめ』(清少納言)をつづけて読み、いまは海道龍一朗『室町耽美抄 花鏡』(世阿弥、禅竹、一休、村田珠光)を読んでいる。


安藤礼二折口信夫』(講談社電子書籍版]:2015.02.01/2014.11)


 井筒俊彦吉本隆明の接点を探しあぐねて本書にたどりついた。安藤本はどれをいつ読んでも夢中になる。途方もなく豊饒な世界に浸りきって、しばらく抜けだせなくなる。電子書籍ではその陶酔からすぐに醒める。書籍版で深い余韻を味わいたくなる。
 電子書籍では他に中沢新一『日本文学の大地』や若松英輔霊性の哲学』を読んだ。中沢本も書籍で読みたかった。若松本では井筒俊彦論が印象に残った。


芳川泰久『謎とき『失われた時を求めて』』(新潮選書:2015.05.30)


 二度、三度と読みかえしていくうち、この本は侮れないという確信が深まっていった。けっして侮っていたわけではないが、これほどの洞察をはらんでいるとは思わなかった。プルーストの無意志的想起(レミニッサンス)と定家の本歌どりとモネの絵画がつながった。


杉本秀太郎『見る悦び──形の生態誌』(中央公論新社:2014.09.25)
原田マハ『ジヴェルニーの食卓』(集英社e文庫:2015.07.31)


 杉本本はちょうど一年かけて読み終えた。これぞ文章!
 原田マハは『楽園のカンヴァス』が良かった。ルソーも好きだが昔からマティスが好きだったし、近頃マネが気になりはじめていたので、小林秀雄『近代絵画』とあわせて電子書籍版を購入したら、これが大あたり。


夏目漱石『行人』(青空文庫


 毎週少しずつ、与謝野晶子訳『源氏物語』と一緒にiPadで読みすすめていった。小津安二郎の映画を細切れで観ているような感じだった。軽妙でいながら、どこか謎めいた悲哀のようなものが漂っている。
 しばらくおいて、文庫本で読みかけだった『夜明け前』のつづきを同じ青空文庫で読むことにしている。


足立巻一『やちまた』上下(中公文庫:2015.03.25)


 地味な題材なのに、とうとう最後まで飽きることがなかった。それどころか、この本を読むことが(地味ながらも)心躍る歓びにすらなっていた。


木村敏『からだ・こころ・生命』(講談社学術文庫:2015.10.09/1997)
井筒俊彦イスラーム哲学の原像』(岩波新書:1980.05.20)


 本格的な著作をじっくり読みこむ体力と知力と根気がなくて、軽くサクサクと読める講演録で思索の香りにふれる。そんな料簡ではとても歯が立たない。本格的著作では接することができない思索の現場の臨場感に目が眩む。


内田樹白井聡『日本戦後史論』(徳間書店:2015.02.28)
☆三浦瑠璃『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書:2015.02.30)
高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』(朝日新書:2015.05.30)


 昨年読んだ赤坂真理『愛と暴力の戦後とその後』も含め、四冊合わせて特大の一本。


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 いま同時並行的に読んでいる本(たぶん十冊以上)から。
 とくに永井(晋)本は今年最大の「発見」になりそうな予感。もう一人の永井本はもし刊行されていたら間違いなく2015年のナンバーワン。


永井均哲学探究──存在と意味」(『文學界』連載完了)
大森荘蔵『物と心』(ちくま学芸文庫:2015.01.10)
☆永井晋『現象学の転回──「顕現しないもの」に向けて』(知泉書館:2007.02.20)
若松英輔『叡知の詩学──小林秀雄井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会:2015.10.28)
若松英輔『イエス伝』(中央公論新社:2015.12.10)
加藤典洋村上春樹は、むずかしい』(岩波新書:2015.12.18)