2005年に読んだ本(その6)

漆原友紀蟲師』1〜6(講談社:2000.11〜2005.6)
 生死、雌雄分岐以前の生命の根源的な記憶と彼此両界にわたるコミュニケーション・ルートにアクセスしつつ、あまつさえエンターテインメントしての結構を備えた稀にみる傑作。


二ノ宮知子のだめカンタービレ』#1〜#13(講談社:2002.4〜2005.9)
 このマンガの面白さは「読んでいる時間の中にしかない」(c.保坂和志)。二ノ宮知子がつくりだすキャラクターの面白さも、読んでいるマンガの中にしかない。とりわけ面白いのは演奏会の情景を描いた箇所──たとえばシュトレーゼマン指揮、千秋真一演奏のラフマニノフ・ピアノ協奏曲2番(#5)とか、千秋真一指揮のブラームス交響曲1番(#8)など──で、当然そこに音は響いていない。しかし沈黙の紙面のうちにたしかに音楽が流れている。それも音楽の表現のひとつのかたちである。これはちょっと比類ない達成なのではないか。


萩尾望都バルバラ異界』2〜4(小学館:2003.7〜2005.10)
 バルバラの謎が明かされる最終巻を読んでいる間、とりわけ夢先案内人・渡会時夫の記憶が上書きされていく場面では、私自身の脳内過程が二重化されたかのような眩暈に襲われ、軽い頭痛と嘔吐感をさえ感じた。読み終えた刹那、一瞬のことだったけれど、目に見える部屋の情景が夢の世界の出来事のように思えた。北方キリヤへのトキオの思いが切なく迫ってくる。自我の孤独と「ひとつになること」。


諸星大二郎自選短編集『汝、神になれ鬼になれ』『彼方より』(集英社文庫:2004.11)
星野之宣自選短編集『MIDWAY 歴史編』『MIDWAY 宇宙編』(集英社文庫:2005.11)
 新宮一成は『夢分析』で「ある種のマンガには、通常の成人が表現できないような太古の感覚の残滓が描き出されることがある」と書いている。諸星大二郎の短編にはまぎれもなく「太古の感覚の残滓」が色濃く漂っていた。個人的な好みでいえば星野之宣の画と着想に惹かれる。


岡野玲子夢枕獏陰陽師13 太陽』(白泉社:2005.10)
 読み終えてしばし言葉を失う。「あとがき」に綴られた文章を読むにつけ、岡野玲子はとりかえしのつかない時空の彼方にとんでいってしまった。この作品は白い光と化した音楽をかたどっている。