『20世紀絵画』

宮下誠著『20世紀絵画──モダニズム美術史を問い直す』(光文社新書)を読んだ。
これも読み終えたのは先月末のこと。
ちゃんとした書評を書こうとぐずぐずしているうち、時間切れになってしまった。
この本は図書館で借りて読んだので、返却期間がきたら返さないといけない。
だから大事な本は自腹を切って読まなければだめなのだ。
以下は、うろ覚えの記録。
絵画は画家が筆と絵の具を使ってキャンバスの上に描いたものだ。
このあまりに自明な事柄の「発見」から20世紀絵画は始まる。
それは絵画についての絵画の歴史でもあった。
人間は自分が見たいものを見る。
見たもの(本質)だけを描く。
それが抽象ということで、だから絵画とはすべからく抽象なのだ。
ヨーロッパの具象絵画は抽象に取り囲まれている。
北方ケルトの抽象的組み紐文様。
東方ビザンティンのイコノクラスム(偶像禁止)。
西方スペインのイスラム的装飾。
南方エジプトの幾何学的造形、北アフリカユダヤ教的抽象世界。
これらの厳格な宗教的規律を思わせる抽象の奔流に抗して、古代ギリシャに淵源する有機的具象性や「愛」に基づくキリスト教的なヒューマニズムという「物語」を対置させたところに具象絵画の根拠の一つがある。
それは極めて特殊な思想に根ざしたものなのである。
20世紀絵画は、こうした抽象と具象の切実なせめぎ合いの中からその豊饒さを紡ぎだしていった。
こうした「要約」は虚しい。
本書の場合、著者自身も認めているように、叙述の進行につれて最初のテーマ(「わからない抽象/わかる具象」という二項対立の無効化)が、旧東ドイツ絵画という「わからない具象」に対する著者自身の個人的「衝撃」を介して微妙にずれていく。
だから読者も、著者が本書にちりばめた「理屈」を拾い出して20世紀ヨーロッパ絵画史の手っ取り早い理解を得ようとせずに、著者のガイド(けっして懇切丁寧とは言えないが)を参考にしながら、個別の作品に入れこむことから始めるしかないのである。
ただ、それにしては本書に掲載された図版はあまりに小さすぎて細部が判別できない。