映像化されたポアンカレ予想

 一昨日放映のNHKスペシャル「100年の難問はなぜ解けたのか〜天才数学者 失踪の謎〜」が面白かった。ポアンカレ予想の証明でフィールズ賞を受賞したグリゴリ・ペレリマンの謎の失踪をテーマにした「CGと実写の合成を駆使し、“天才の頭の中”を映像化する知的エンターテイメント番組」。その内容はここに詳しく書いてある。
 ペレリマンの生い立ちやポアンカレ予想に取り組んだ天才数学者たちの物語にも心惹かれたが、なにより面白かったのはCGを使って映像化された天才アンリ・ポアンカレの頭の中の世界、つまりポアンカレ予想とは何か、それが証明されるとはどういうことかを映像イメージでもって直感的に理解できたと視聴者に思わせるところ。言葉で記録することができないのが残念だ。
 宇宙のかたちを宇宙の外に出られない人間がいかにして認識できるのか。そういうことがポアンカレ予想に関係しているらしい。
 人間の頭が考えたこと(ポアンカレの場合はトポロジーという数学)が、実在する宇宙のあり方と深くかかわっている。人間の精神だって実在する宇宙の中の事象だと割り切ればそれまでだが、こういうことにはいつもワクワクさせられる。数学は精神科学の粋だという岡潔の言葉を想起する。
 たまた読んでいた加藤文元著『数学する精神』(中公新書)の第4章「コンピューターと人間」に、計算する我とそれを反省するメタな我という二つの我があり、後者があってはじめて数学的帰納法の原理に適用できるパターンが見出されるのであるといった議論が展開されている。そしてそのような「メタな我」つまり「パターン」を発見する我とは一体どのようなものかをめぐって、かの『科学と方法』に紹介されたポアンカレのアハ体験にふれている。
 この「メタな我」という言葉が、CGを使って映像化されたポアンカレ予想と響きあった。