物理的資源・情報処理の仕事・成功基準

 いま、別冊日経サイエンス『不思議な量子をあやつる』を読んでいる。よく理解できた、とはとてもいえないけれど、とにかく面白い。その冒頭論文「量子情報科学とは何か」(M.A.ニールセン/古澤明訳)に、情報科学の3つのステップとその基本的な問題が紹介されている。
 ここに出てくる「物理的資源」「情報処理の仕事」「成功基準」の三つの語は、とても使い勝手がよい。いろいろな面で、応用が利きそうだ。


《2001年、ケニヨンカレッジのシューマッカー(Benjamin W. Schumacher)は、古典的な情報科学でも量子情報科学でも、本質的要素は次の3つのステップに集約されると提唱した。
【ステップ1】情報を表現する「物理的資源」を特定すること。よく知られている古典的な例はビット列だ。ビットは抽象的な存在(0と1)と考えられることが多いが、どんな情報も現実の物理的対象に符号化されることによって表現される。したがって、ビット列は物理的資源と見なされる。
【ステップ2】こうした物理的資源によって実行可能な「情報処理の仕事」を特定すること。古典的な例としては、情報源からの出力(例えば本に書かれた文章)をビット列に圧縮し、それを元に戻すという2段階の仕事がある。圧縮されたビット列を元の情報に復元するのが仕事の中身だ。
【ステップ3】この仕事が「成功したかどうかを判定する基準」を特定すること。上の例では、元に戻したビット列が圧縮前の状態と完全に一致することが基準となる。
 こうしてみると、情報科学の基本的な問題は「ある情報処理の仕事(2)を成功基準(3)に照らして完遂するために必要な物理的資源(1)の最小量はどれだけか?」に集約できる。この問題がすべてではないにしろ、情報科学分野の多くの研究を考察するうえでよい視点を与えてくれる。》