夢の中に生きている貫之

 周防柳さんの『逢坂の六人』を読み始めた。まだ序のなかばあたりを彷徨っている。
 紀貫之が主要人物で、「六人 The Magnificent Six」とは六歌仙のこと。目次(美しい!)をながめていると、貫之が狂言廻しになって、連作小説風に物語が進行していくのではないかと予想される。(なぜか、喜撰法師の名がでてこない。)
 ちょっとわくわくしている。


《貫之は空想の世界に遊び、架空の天地にさすらうことが、なによりも楽しかった。屏風絵に歌を添えることはたんなる画賛を考えることではなく、その絵の中の人間になりきって、野山を逍遥し、花鳥を愛でることであった。貫之には、いつも夢の中に生きているようなところがあった。》(26頁)


 見てきたような嘘。嘘というよりは、つくりごと。じつに清々しい。
 なによりも文章がいい。新鮮な果汁がとびちったあと、しばしただよう微香のように、初々しい。


※『逢坂の六人』目次


序 みやこの辰巳
一 夢のやまい──あこくそ
二 Born to be wild──在原業平
三 うつろい──小野小町
四 樹下の墓守──大友黒主
五 歌いらんかへ──文屋康秀
六 待ちぶせ──僧正遍照
終 六歌仙
附 むかし男ありけり