最近読んだ雑誌──『NewsWeek』

『NewsWeek』年末恒例の特集「ISSUES 2006」を読んだ。
キーワードは「知の経済」。
あいかわらずきびきびした文章と冴えた視点と(それに賛同できるかどうかは別として)明確なスタンスをもってバランスよく配分された記事。
記憶に残った箇所を抜き書きしておく。


その1.
「IQマグネット」(最先端の知識や才能が集中している地域)なる語を考案したビル・ゲイツが「考えるソフトが導く新世界」で、情報とは異なる知識の奥深さについて書いている。
「今こそ成長のチャンスなのだが、知識の活用は意外に難題だ。知識は情報に比べて伝達しにくく、より主観的で、簡単に定義できない」。
「しかしソフトウエアが知識を合成したり、管理するのにも役立つようになってきた」。
「ウェブで情報を検索するように、世界トップクラスの思考にアクセスできるようになれば、ビジネスや科学や教育に革命が起きるだろう。それは私たちの思考法を変え、真にグローバルな知識経済を実現する一助になる」。
そうした検索システムの一つが、WWWを考案したコンピュータ科学者ティム・バーナーズリー(MIT)が提唱する「セマンティックウェブ」だ。
ウェブ上の個々の情報に、主語・目的語・述語のように機能する3つの「しおり」をつけることで、情報を知識に変える検索エンジンをつくろうというものである(「検索は頭脳派エンジンで」)。
よくわからん。


その2.
知の経済の眼目は「共有」にある。
「経済学の父アダム・スミスは市場のメカニズムを「神の見えざる手」と形容した。それが今、「見えざる握手」に形を変えようとしている」。
それはピア・トゥ・ピア(P2P)やオープンソースのソフトウェアやSETI@homeやウィキペディアなどに現われている。
コンサルタントや学者はこうした現象を定義する言葉を模索しており、「創造性の分配」とか「協業生産」などといった用語が生まれている。呼び名はどうであれ、根底にあるのは知識を共有すればそれが報われるという共通概念だ」。
「従来の利己主義と競争に基づく経済モデルはオープンソース哲学の圧力にさらされ、「幸福を探る科学」に変身した。経済的な利益以上に人を満足させるものは何か。その答えの一つは、他者と密接につながって世界を動かす役割を果たすことにあるだろう」。
「重要なのは、集団は個人よりも多くの情報を蓄積することができるということだ。知識は力だ。決してヤワな力ではなく、本物の力である。これにはアダム・スミスも同意するはずだ」。
以上、「「知識力」を分かち合う選択」から。


その3.
何事にも光と影がある。
「「知の経済」の落とし穴」によると、知識経済の最大の弱点は無知である。
「データベースや音楽のダウンロード、金融取引……現在の私たちはこうした「ミクロの知識」にどっぷり漬かっている。(略)しかし一方で、歴史を動かす偉大な力となる「マクロの知識」が存在する。新たなアイデアやテクノロジーが生み出す社会的影響、政治や社会制度の変化、地政学的な関係の進展、文化の変容などに関しては、私たちは昔も今も無知なままだ」。
イギリスの歴史家ニアル・ファーガソンハーバード大学)は現代と第一次大戦前の類似性を指摘している。
ファーガソンがとくに注目しているのが、経済学と地政学の断絶だ。(略)金融市場は迫り来る危機を察知せず、株価や金利といったリスクを知らせるはずの指標はなんの信号も発しなかった。「ヨーロッパで最も情報に精通していた人々が、(開戦間際まで)戦争は起きないと考えていた」と、ファーガソンは語っている」。