保坂和志と野矢茂樹のコラボ・その他

夏休み中なのに午前中に会議が入っていたのでなかばボランティアで仕事をこなし、午後しばしの書店めぐりのあと『小説の自由』と『他者の声 実在の声』のまわし読みをしてから、夜『パッチギ!』と二人の天才ボケがからむ『きらきらアフロ』を観た。
パッチギ!』はよかった。今日一日の最高の収穫だった。


書店ではラマチャンドランの『脳のなかの幽霊、ふたたび──見えてきた心のしくみ』を買った。
原題は“THE EMERGING MIND”で「暗闇から心」とか「立ち上がる心」(この「立ち上がる」という言葉は保坂和志の小説観のキーワード)とでもすればいいところ。
ベストセラーになった前作の読者を丸ごととりこむつもりだろう。現に一人とりこまれた。
『脳のなかの幽霊』(“PHANTOMS IN THE BRAIN”)は買ったきりで未読なので、この際あわせて読んでおこうと思う。
岩波から下條信輔訳でベンジャミン・リベットの『マインド・タイム──脳と意識の時間』が出ていたのでどちらにするか迷った(リベットの話題は『関係と自己』の序論にも出てきて気になっていた)が、気楽に読めそうなのを選んだ。
『群像』に連載していた三浦雅士の『出生の秘密』が刊行されていた。
腰巻きの謳い文句に「衝撃作『青春の終焉』に続く新たな地平」とある。
ぱらぱらと眺めているとラカンの「想像界象徴界現実界」とパースの「イコン・インデックス・シンボル」の関係を論じた箇所があってぐっときた。
いずれ購入することになりそう(いったいいつ読むつもりなんだとの声)。


保坂和志野矢茂樹を同時進行的に読んだのはたまたま偶然のことなのに、この二人のコラボレーションはほんとうに見事にきまっている。
朝日新聞の夕刊(8月10日)で『小説の自由』が取り上げられていた。
そこで保坂和志は「自分と世界などについて新たな問いを作り出すのが小説だと思います」と語っている。
「この小説は速いか遅いか、強いかゆるゆるしているかなどと考えながら読む。読み終わった後はその手探り感に酔う。最初は緊張するし頭を使うし、大変です。そんな手探り感がなく、するする読める小説があふれているいま、書き手として感じる面白さを書かない人にも伝えたかった。」
この「するする読める小説」は、たとえば「3 視線の運動」の章の志賀直哉の完成された文章、なめらかな文章の話題と(たぶん)つながっていて、それは野矢茂樹の『他者の声 実在の声』の「3 「考える」ということ」に出てくる「言語ゲームのよどみ」の話題とも(たぶん)つながっている。
これなど二人のコラボレーションのほんの一例でしかない。