『ハルビン・カフェ』

打海文三ハルビン・カフェ』読了。
8月の頭に読み始めて以来ほぼ毎日、仕事帰りの電車の中で沈潜した。
最後まで飽きることなく、それどころかしだいに熱が入り、この重厚に構築され、錯綜した人間関係と欲望の質がはりめぐらされた虚構世界に全身を浸すようになった。
一気に読み通したくなる欲求をこらえにこらえて熟読した。
物語の興奮にわれを忘れることなく、最後の一頁まで気持ちを乱さず、冷徹に、ハードボイルドに、読み終えたかった。
頭の中に聞こえない音声を響かせたり、脳内スクリーンに映像を浮かべることをできるかぎり禁欲し、つまり純粋に文字を読むことに徹して読むことを心がけた。
そうすることがこの作品にはふさわしいように思えた。
気がつくと頭の中で声を出し、映画を見るように読んでいた。
最後の最後で緊張にたえられなくなって、堪らず、結末まで一気に駆け抜けてしまった。
それでも濃い読書だった。これほどの傑作にも欠陥はある。
物語はいつか結末を迎える。
これだけはどうしようもない。
原広司『集落の教え100』からの引用がきまっている。