ノヴァーリスの断章

 古今東西、老若男女、聖俗貴賎を問わず、一番好きな作家は誰かと問われたら、たぶん迷わずノヴァーリスと答えるのではないかと思う。そんなことを訊ねる人はいないだろうし、それに、きっと時と場合で答えは違ってくるだろうけれど、今のところはノヴァーリス。それも、断章。沖積舎の全集でも、断章、草稿、研究ノートばかり収録した第2巻だけ買って常備している。
 ノヴァーリスにはもとから関心はあった。読書日記を繰ってみると、1999年10月、今泉文子著『ロマン主義の誕生──ノヴァーリスとイェーナの前衛たち』(平凡社)を読み、いたく感銘を受け、2001年10月に、中井章子著『ノヴァーリスと自然神秘思想──自然学から詩学へ』を読んで、決定的になった。特に、中井本にふんだんに引用されたノヴァーリスの断章群には圧倒された。
 ちくま文庫から作品集が出ているのは知っていたが、迂闊にも、沖積舎版全集の文庫化だと思いこんでいた。昨日、坂部恵さんの『和辻哲郎』(岩波現代文庫)を探しに出かけた書店の新刊書コーナーで、第3巻「夜の讃歌・断章・日記」が目にとまり、胸騒ぎがしたのでて手にとってみてびっくりした。
 この作品集は、今泉文子さんが単独で翻訳した文庫オリジナルだった! しかも各巻の内容を見てみると、第1巻「サイス弟子たち・断章」にも、「断章と研究 一七九八年」や「フライブルク自然研究(抜粋)」が収録されている!
 というわけで、『和辻哲郎』は見つからなかったので後日を期すことにして、『ノヴァーリス作品集3』を速攻で買い求め、ぱらぱらと頁を繰っては、幸福な夜の時間を味わった。この際、『ベンヤミン・コレクション4』とあわせて腰を据えて読み込み、引き続き、ノヴァーリス作品集とベンヤミン・コレクションの同時並行的読破に突き進むか。
 「記念」に一つだけ、任意に開いた頁から、ノヴァーリスの断章を書き写しておく。(ジョージア・サバスの『魔法の杖』みたいに、ノヴァーリスの断章との偶然の出会いが、何かしらの出会いや啓示を与えてくれるかもしれない。「ビブリオマンシー(書物占い)」ならぬ「ノヴァーリス占い」。)


《もしかしたら、チェスに似たゲームに基づいて──象徴的な思考構築ができるかもしれない──昔の論理学的な弁論試合は、盤上ゲームとまったく似ている。》(286頁)