「ホリゾンタル」な図式と「ヴァーティカル」な視点

このところずっと、『生命と過剰』とその第二部にあたる『ホモ・モルタリス』が収められた丸山圭三郎著作集第4巻を読んでいる。 読み始めた動機は、丸山圭三郎と井筒俊彦の思考の同型性を確認する、といったことだったが、そういった個別の関心事とはかかわ…

ジョン・ル・カレ

少し前からジョン・ル・カレの『誰よりも狙われた男』を読んでいる。 読み始めてすぐ他の本が読めなくなり、これ一本にしぼってゆっくり時間をかけ、一文たりともおろそかにせず細部を味わい尽くすようにして読み進めている。 ちょうど映画も公開中のようで…

アラベスクとアナグラム

論文のタイトルに惹かれて、宗像衣子さんの「宙空のアナグラム・宙空のアラベスク──マラルメ『骰子一擲』序論・〈形象の変容と思惟的像〉」を読んだ。(『トランスフォーメーションの記号論』(記号学研究10)[東海大学出版会:1990.05.10]所収) 秋山澄夫…

Web評論誌『コーラ』23号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』23号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://homepage1.canvas.ne.jp/sogets-syobo/index.html --------------------------------------------------------------- ●連載:哥とクオリア/ペルソナと哥● …

記憶のインデックス──『これを語りて日本人を戦慄せしめよ』

★山折哲雄『これを語りて日本人を戦慄せしめよ──柳田国男が言いたかったこと』(新潮新書) 柳田国男のことは(萩原朔太郎とともに)数年かけてきわめたいと思っている。究めることはできなくても、自分なりに見極めたいと思っている。 本書はいずれまた読み…

Web評論誌『コーラ』22号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』22号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://homepage1.canvas.ne.jp/sogets-syobo/index.html --------------------------------------------------------------- ●現代思想を再考する[第2期]4(最終…

初めての電子ブック体験

小浜逸郎著『日本の七大思想家──丸山眞男/吉本隆明/時枝誠記/大森荘蔵/小林秀雄/和辻哲郎/福澤諭吉』を読んだ。 初めての電子ブック体験だった。 全体の分量が感覚的につかめないのが苦痛だし、後で文章を確認するのに苦労する。議論ではなく物語に溺れるの…

カラダコトバのOS

田中泯×松岡正剛『意身伝心――コトバとカラダのお作法』。 対談の圧巻は田中泯と松岡正剛が語る「恋愛観」。二人の関係に嫉妬を感じながら読んでいた。 このところ松岡正剛に如何わしさ、怪しさを感じなくなりかけていたけれど、やはりこの人は「ホンマモン」…

人間の精神的覚知の深みの直接無媒介な表現

小学校高学年まで、父親の書道教室で毎週日曜、習字の練習をしていた。 その記憶とここ数年の和歌への関心から、かなへの興味がしだいに高じ、ある日とうとう筆と半紙を買い、図書館で借りた入門書を手本に書き始めてみたら、気持ちがしずまってとても感じが…

切抜帖──『歌と宗教』から

鎌田東二著『歌と宗教──歌うこと。そして祈ること』(ポプラ新書)から。「俳句アニミズム論」とその解説。 1)「俳句」とは、「俳諧」である。 2)「俳諧」とは、「俳=人に非ず+諧=皆言う」ワザである。 3)したがって、「俳諧」とは、「写界主義」で…

身体のなかを竜巻がかけめぐる経験

前田英樹著『ベルクソン哲学の遺言』を半年ほどかけて断続的に読み進め、ついさきほどようやく読了した。 『言葉と在るものの声』のときもそうだったが、前田英樹の本を読むことは、身体のなかを竜巻がかけめぐるのを経験するのに等しい。精神をカンナで削ら…

最近読んでいる本──『夢十夜』ほか

安田登さんの『異界を旅する能 ワキという存在』はほんとうに面白い。 その安田さんの夢十夜(第三夜)の朗読をユーチューブで観た。とても迫力のある声だった。 オリオンブックスからでている電子ブック(Kobo版)を買って読んでいる。 この作品は漱石が謡…

最近買った本──『幽玄・あはれ・さび』ほか

久しぶりの大人買い(というほどの冊数でもないか)。 和歌と連歌と俳諧、能・人形浄瑠璃・歌舞伎、茶の湯を起点に花、書、香、そして美術建築工芸へと、日本の美学に関連する書物を集中的に読みたいと思っている。ここ数年ずっと思いつづけている。 ◎大西克…

魂(アニマ)について

山内志朗著『「誤読」の哲学』から中畑正志著『魂の変容──心的基礎概念の歴史的構成』へ。そして神崎繁著『魂(アニマ)への態度』へ。 西洋古代・中世の哲学と現代の「心の哲学」をつなぐ(そして貫之、俊成、定家、心敬、世阿弥、芭蕉、等々の歌論、連歌論…

切抜帖──『あわいの力』から

安田登著『あわいの力』からの切り抜き。 ◎ワキとはすなわち「媒介」である ワキは「分く」の連用形。着物の脇の縫い目(ワキ)が着物の前後を分けると同時につなぐように、能のワキは「あっちの世界」と人間、「異界」と現実世界を「媒介」する「あわい」の…

今年最初に読んだ本・買った本

今年の初読みは、安田登著『あわいの力──「心の時代」の次を生きる』。 昨年の暮れ、毎日新聞の渡辺保の書評文で知った前田英樹と安田登の対話本『からだで作る〈芸〉の思想』と一緒に購入した。 今日、全十章のうち二章まで読んだ。滅法面白い。 面白く読み…

心に残った本

今年読んだ本のなかから選んでみた。◎がベストテン、○が次点。 ◎與那覇潤『中国化する日本──日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋:2011.11.20) ◎白井聡『永続敗戦論──戦後日本の核心』(太田出版:2013.03.27) ◎藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本…

Web評論誌『コーラ』21号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』21号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/index.html --------------------------------------------------------------- ●現代思想を再考する[第2期] 3● グノーシ…

Web評論誌『コーラ』20号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』20号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/index.html --------------------------------------------------------------- ●現代思想を再考する[第2期] 2● 自由の条…

Web評論誌『コーラ』19号のご案内

■■■Web評論誌『コーラ』19号のご案内■■■ ★サイトの表紙はこちらです(すぐクリック!)。 http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/index.html ●現代思想を再考する6● 差異と継承 ST(コメント:広坂朋信) http://sakura.canvas.ne.jp/spr/lunakb/genda…

小説の物語

☆ウラジミール・ナボコフ『ナボコフの文学講義 上』(野島秀勝訳,河出文庫:2013.01.20) 昔、阪神淡路大震災よりも数年前に読んだマヌエル・プイグの『蜘蛛女のキス』が面白かった。(1992年9月以降に読んだ本は記録しているが、蜘蛛女はそこにでてこ…

誰が語っているのか

☆ル・クレジオ『物質的恍惚』(豊崎光一訳,岩波文庫:2010.5.14) 昔、たぶん大学生の頃だったと思うが、アンリ・ミショーの詩やデッサンに強く惹かれていた時期があった。小海永二氏の著書か訳書を何冊か買い求めたような気がするのだが記憶が不確かで、詩…

最後に現われるものが最初から存在する

☆岡ノ谷一夫『「つながり」の進化生物学──はじまりは、歌だった』(朝日出版社) 岡ノ谷一夫さんのことは小川洋子との共著『言葉の誕生を科学する』(河出ブックス)ではじめて知り(これは名著だった)、つづけて『さえずり言語起源論──新版 小鳥の歌からヒ…

恋歌と恋文、音の韻と字の韻・読後談(その2)

☆石川九楊『日本の文字──「無声の思考」の封印を解く』(ちくま新書) ☆松木武彦『進化考古学の大冒険』(新潮選書) ☆養老孟司『身体の文学史』(新潮文庫) 『日本の文字』の読後談をもう一つ。 石川九楊氏は、「文字とは話し言葉を記すためのたんなる記号…

恋歌と恋文、音の韻と字の韻・読後談(その1)

☆石川九楊『日本の文字──「無声の思考」の封印を解く』(ちくま新書) ☆『芸術新潮』2006年2月号[特集|古今和歌集1100年 ひらがなの謎を解く] ☆小松英雄『みそひと文字の抒情詩──古今和歌集の和歌表現を解きほぐす』(笠間書院) 『日本の文字』…

恋歌と恋文、音の韻と字の韻(その2)

☆石川九楊『日本の文字──「無声の思考」の封印を解く』(ちくま新書) 第五章「文字と文体」に、「ひらがなとともに生れた古今和歌」のレトリック、掛詞、縁語、見立、歌枕、等々は、「音による韻律ではなく、文字=書字による韻律、書字詩」、すなわち「文…

恋歌と恋文、音の韻と字の韻(その1)

☆石川九楊『日本の文字──「無声の思考」の封印を解く』(ちくま新書) 西洋の恋する男は女性が暮らす部屋の窓の下で歌を歌って求愛するが、東アジアの男は恋文を書いて思いを伝える(152頁)。西洋では声の美しい男がもてて、東アジアでは美しい文字を書く男…

知の妖怪と知の怪物

☆白川静+梅原猛対談『呪の思想 神と人との間』(平凡社) 奇人・梅原猛、大奇人・白川静。二人の知の巨人(知の妖怪と知の怪物)が今世紀の初頭、三度にわたって対峙した。歴史に刻まれるべきその対談のテーマは、漢字(=饗)と孔子(=狂)と詩経(=興)…

くり返し、それを求めて立ち帰ってくるように誘うことをやめない力2

☆吉田秀和『マーラー』(河出文庫) 詩人か作曲家か数学者。子供の頃、いつか自分が就くことになる職業、というか天職はこのうちのどれか一つ、あるいは複数のものを兼ねることになると信じて疑わなかった。「就くことになる」であって「なりたい職業」や「…

くり返し、それを求めて立ち帰ってくるように誘うことをやめない力

☆吉田秀和『マーラー』(河出文庫) ここ一年近くマーラーの交響曲を聴きこんでいる。聴きこむというほど集中しているわけではないけれども、時にネットからダウンロードした楽譜を眺めながら聴くこともある。(いつか「アナりーぜ」の真似事をやってみたい…